ちりめんは鮮度が命。ちりめんの加工場は海の近くにあり、日の出と共に出発した漁船が戻ると 1秒を惜しむように茹で上げます。漁の最盛期である春と秋は、加工場に併設する干場には真っ白なちりめんが一面に広がり、この様子は漁場の盛んな明浜の原風景。そして漁のない冬場、ちりめんに代わって干場にいっぱいに広がる真っ白な切り干し大根もまた、明浜の中でも狩浜地区の風物詩となっています。
ことの起こりは諸説ありますが約20 年前。もともと明浜では各戸軒先に切った大根を干す様子は特別なことではありません。有機栽培の大規模経営を目指して農地を構え、どんと育てたてんぽ印の大根があり、漁の再開をまつ祇園丸の干場がある。ミネラルを含む潮風で干したあげた切り干し大根に「これぞ、よそ者と地元民が作り上げる地域密着型の商品だ!」とロマンを感じた若者たちが商品化に向けて動き出すのもまた必然でした。
切り干し大根を仕上げるには寒風にさらすことが肝要です。てんぽ印はポンカンや伊予柑の収穫を終えて甘夏の収穫開始までの間に切り干し大根を作らなければなりません。しかし風が強すぎては大根が宙に舞い飛び、さらに時雨れようものなら台無しに。天気の見定めは加工品づくりといえども農業と同じく自然頼みの難しさがあります。さらに大根に含まれる豊富な水分は大根のおいしさの一端ですが、加工品づくりにおいてはなかなかの難敵。大根はしっかりと水分を含んでおり、大根を握った手が「かじかむ」を通り越して「痛い」と感じるほど冷たいのです。
てんぽ印の切り干し大根は「他にはないうまみがある」と言われることがあります。土づくりにこだわり育てた大根に、地域の助けとてんぽ印の根性が加わり、さらに潮風にのったミネラルをまとった切り干し大根には効率だけでは得られない深い味わいがあるのです。
おかげさまで今年の切り干し大根の作業も順調に進みました。明浜ももうすぐ春。海辺の主役は切り干し大根からちりめんへ変わる時期を迎えています。