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苗木のおはなし

2023.05.24

苗木を育てる

柑橘栽培は長い年月をかけて木を育ててゆく営みです。30年から40年ほど栽培するのが標準的ですが、兎にも角にもまずは苗木を植えるころからはじまります。苗木を植え付けるのは芽吹きを目前にした3月。いったん芽が吹くと、続けて新しい根が動きはじめ、植えられた場所にしっかりと定着していきます。あまり植える時期が早すぎると冬の寒い風に吹かれて発芽前に弱ってしまい、逆に遅い時期になると既に木が活発に動きはじめたなかで根を切断してしまうことになります。これから順調に育成していくために、植え付けに適したこの一か月で一斉に苗木の植栽作業を進めていくのです。

 

レモンの苗木を植える生産者・高岡勇治。

 

柑橘栽培では苗木は「接木苗」を用います。接木苗とは、“台木”と呼ばれる若い木に、育てていきたい品種の“穂木”を接ぎ、この穂木から出た芽を大きく育てていくものです。台木から出る芽はすべて除去してしまうため台木自体の果実ができることはなく、地中の根だけを活かして育て、枝葉や果実は穂木の品種のままで育ちます。いま柑橘のほとんどの品種で台木として利用されている“キコク”は一般的にはカラタチとして知られ、まさに縁の下の力持ちとして柑橘栽培を支えています。

 

台木になるキコクさえあれば、農家が穂木を自ら接いで苗木を一から作っていくこともできます。しかし、苗木の育成は専門の生産農家に任せ、購入苗を利用することが一般的になっています。苗木の一大産地となっているのが、福岡県久留米市の田主丸地区。地形や気候が適しているのか、数百年前から植木や苗木の産地として知られ、殖木(ふえき)という地名があるほど。特に柑橘苗はこの田主丸産がほとんどを占めており、無茶々園でも田主丸の苗木農家にお願いして苗木を作ってもらっています。

 

苗木は束ねられ、箱に入って届きます。

 

無茶々園は地域の農家が集まって誕生した協同組織であり、肥料をはじめとした農業に必要な資材を共同で購入する仕組みがあります。今から20年ほど前のちょうど、せとかなどの新しい品種が出たころから、苗木も同じように各生産者の注文数量をとりまとめ、一括して苗木農家へ発注する体制にしています。そして2004年秋の台風被害を契機に、被害を受けた園地の植え替えや新しい品種の導入を通じて苗木の購入量も増えていきます。

 

この10年ほどは毎年1万本前後の苗木の導入が続いています。台風による被害や新品種が続々と生まれた背景もありますが、もともと1950年代から60年代に柑橘産地化した明浜では木の樹齢が50年を超えるような老木が多かったこともあります。老木になると着果が不安定になるほか、木が大きくなりすぎると作業性も悪く、少しずつ枯れる木が出て畑が歯抜け状態になり、そろそろ植え替えが必要な時期になっていました。気付けばこの10年で栽培面積の約30%にあたる約40haを植え替え、いま無茶々園の園地は樹齢の若い木が多くなりました。植えてから数年間は収穫がなく一時的に生産量が減ることにはなりますが、今後20年、30年先のことを考えれば前向きな植え替えになります。

 

 

大苗育成

さて、この3月にも13,000本の苗木が田主丸の苗木農家から入荷してきました。いっぺんに入ってきますので、品種ごと、農家ごとに仕分けて配布しなければいけません。毎年若手の農家や事務所・てんぽ印のスタッフが大勢集まって仕分け作業を行い、今年は農業体験に来ていた高校生や大学生にも手伝ってもらいました。倉庫の中が苗木でいっぱいになる春の恒例行事になっています。こうして配布した苗木は、古い木を伐採して植え穴を掘って待ち構えていた農家の手に渡り、一週間くらいの間に新しい畑に次々と植え付けられていきます。

 

苗木を植えるてんぽ印のひとびと。狭く急峻な畑では苗木を植えるのも一苦労。

 

昨年から新たに取り組んでいるのが、苗木をすぐには畑に植えず、一年間大きなポットで集中的に育成する大苗作り。柑橘栽培での悩みの種であるゴマダラカミキリムシの被害に加え、以前は明浜では見かけなかったミカンナガタマムシの被害が増え始め、樹勢が弱くなった老木が急に枯れ込んでしまう園地も出てきました。部分的に木が枯れた園地では空白になった場所に苗木を補植するのですが、全面的に植え替えた園地に比べてどうしても手が行き届かずに苗木がなかなか育ちにくいもの。そこで、あらかじめポットで大きく育てた苗木を植えて解決しようとする試みです。

無茶々園では食べやすさや甘さを重視した最新品種は慎重に導入している一方で、農薬を使わなくても作りやすい品種や古い品種を大事にしながら次の品種構成を考えています。

 

柑橘栽培の農事暦では、芽吹きと花が訪れる春が一年のスタート。これから数十年の伴侶になる新しい苗木とも付き合いがはじまります。植え付けてから数年間は、新芽を伸ばすことに集中させ、体を大きく育てていく育成期です。今年も期待を込めて植えた苗木の育成がはじまっています。

 

ポットに植えられた苗木たち。補植の際に活躍してくれるはず。大きくなれよ。

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