ジューシーフルーツの終了をもって柑橘シーズンもひと段落。振り返ってみれば、今期は生産、販売ともに苦難の連続でした。年内の温州みかんこそ順調に販売を終えることができたものの、年明け以降の品種はトラブル続き。特に甘夏、ジューシーフルーツをはじめとする春以降に収穫を迎える柑橘は収量が大きく激減し、非常に厳しい結果となりました。
その要因は大寒波。2023年は1月、2月にそれぞれ大きな寒波が到来しましたが、特に2月の寒波は非常に強力で、甘夏、ジューシーフルーツ、南津海といった4月以降に出荷ピークを迎える柑橘にきわめて甚大な被害を与えました。特に甘夏の被害は大きく、被害想定量は50トン以上!これは同じく寒波により生産量が減少した2017年春を上回る深刻な数字です。
2023年1月25日。雪が積もったみかん山。
強い寒波によって発生する障害(=寒害)は苦み・スアガリ・落果・腐敗(霜腐れ)です。柑橘は品種にもよりますが、マイナス3~マイナス5度以下で凍結がはじまります(※)。果実が凍結して5時間後にはまず「苦み」が発生しはじめます。その原因となるのは、柑橘に含まれているナリンギン、リモネンといった成分。寒害のダメージが深刻なほど強い苦みとなるようです。苦みは凍結後一週間から10日がピークですが、なかなか消失することはありません。せとかや南津海といった食味重視の高糖系品種ほど影響は深刻です。
※温州みかんマイナス5.2 度、ポンカンマイナス3.2 度、伊予柑マイナス3 ~マイナス3.5 度、甘夏マイナス3.5 ~マイナス4 度と言われています。
寒害のもうひとつの深刻な被害は「スアガリ」です。スアガリが発生すると果肉から水分が抜けてスカスカになってしまいます。この症状は短時間の凍結では発生しません。7~8時間以上果実が凍結して起こります。スアガリのやっかいな点はすぐに発生しないこと。凍結してから20~30日後からはじまり、1 ~2ヶ月たってようやく症状が明瞭になるため、被害状況がなかなか見えにくく収穫直前になって発覚するという事態も多々あります。実際、とある農家では、3月上旬は大丈夫そうに見えたジューシーフルーツが3月下旬ごろになるとスアガリが進行し、結局その畑に成っているすべての果実が出荷できなかったということもありました。柑橘の収穫は一年に一度きり。農家にとっては深刻な事態です。
【通常の状態】果汁たっぷりでみずみずしい。
【スアガリの状態】果汁が少なくパサパサしている。
今期の状況を踏まえ、よくよく品質確認を繰り返しながら出荷を行いましたが、寒害被害果を100%取り除くことはできず、食味不良やスアガリといった厳しいご意見を多数いただくという結果となりました。天候によるものとはいえ、消費者のみなさんに十分に満足できるものをお届けできなかったことは心苦しいばかりです。
寒波はこれからも容赦なく到来することでしょう。泣き言を言って終わりではなく、このリスクに備えていく体制を作らねばなりません。一番の寒波対策は寒気が溜まりやすい畑、標高が高い畑には春以降に収穫する品種は植えないこと。ビニールシートのような資材を利用しての保温・寒風対策もありますが、これには経費や手間がかかるうえに、設置したからといって100%安心とも限りません。しかし、寒波が来る前に収穫してしまえば被害はゼロ。実際、寒波到来の予報を受けて被害の発生しそうな畑にあるレモンは早期収穫を促し、被害を最小限に抑えることができました。改植にあたっての具体的な品種候補としては、年内に採取する温州みかんやポンカン、レモンが考えられます。陽当たりや風向きによっては、橙(かぶす)や文旦などもいいかもしれません。すぐに効果をあげることができないのがもどかしいところですが、自然と向き合いながら研鑽を重ねていくのが農業の醍醐味。試行錯誤を重ね、転んでもただでは起きない産地づくりにこれからも励んでまいります。
寒波の影響で落果したジューシーフルーツ。
2023年の前半戦は厳しい結果となりましたが、秋からのみかんシーズンにむけて柑橘の生育はいまのところ順調です。温州みかんをはじめ、伊予柑やポンカン、不知火、甘夏といった主力品種はしっかりと実を結んでくれています。台風やカメムシ被害など、まだまだ油断はできませんが、10月からの柑橘シーズンを楽しみにお待ちいただけますと幸いです。
温州みかんの幼果。いまのところ順調に生育しています。