その土地では当たり前のように話される方言。移住した人間の耳にはなかなか新鮮に聞こえるようです。今回は東京から明浜に移住してウン十年、無茶々園スタッフの宇都宮美香さんに思い出の方言について記事を書いてもらいました。
今から30年ほど前のこと、無茶々園には「ヤギ牧場」があった。みかん山の山頂近くに小屋を建て、十数頭のヤギを放牧し、乳を搾っていた。専従のヤギ担当者がいたが、事務所スタッフも時々交代で世話をしに通ったものだ。
ある夏の日、ヤギ牧場から戻った人が「ヤギがおおかた死によった」と言うではないか。この暑さで次々とヤギが死んでいっているのかと驚くと、「いや違う、おおかた死によったんてや」。県外出身でまだまだ方言学習中だったころで、「~しよった=~していた」→「死によった=死んでいた」という意味と理解していたが、「おおかた」がつくことで「今にも~しそうだった」という意味になることを初めて知った。実際にはヤギは一頭も死んではいなくて、暑さのせいでぐったりしていたという程度の話だったのだ。この「おおかた」の用法にはなかなか慣れず、「おおかたこけよった(こける=転ぶ)」といわれて「お年寄りが転んだら命にかかわる!」と思ったら「おおかたこけよったんよ」(転びそうになったが転んでない)と無事だったり。
先日、県外出身の鶴見君(20歳)に、何か印象的な方言はないかと聞いてみたところ、この「おおかた」を挙げた。それでヤギ牧場の件を思い出したというわけだ。
ところで、「ヤギ牧場」のその後について。ヤギたちはしかるべきところに譲渡され、牧場はなくなったが、跡地を利用してみかん生産者の宇都宮祐一さん(故人)が趣味と実益を兼ねて養蜂をはじめた。無茶々園でも「明浜純蜂蜜」として販売し好評だったが、残念なことに昨年祐一さんが亡くなり、あの蜂蜜を味わうことができなくなってしまった。「おおかた」というひとことから、山に海にと活躍していた祐一さんを偲んだひとときであった。
懐かしいヤギ牧場の面々。