柑橘農家にとって苗木を植えるのは赤ちゃんが生まれるようなものです。葉の付け根から出た芽が20~30cmほど伸びて止まり、また次の芽が伸びて止まり。順調にいけば3回は新芽が伸びて、一年で人の腕ほどの長さに枝が伸びます。苗木の育成中は花が着けば摘み取って樹の成長に集中するよう促します。これを3年ほど繰り返せば、人の背丈ほど、両腕を広げたほどのボリュームに育ち、ようやく花を止めて果実を成らせる時がやってきます。
この苗木の育成はとにかく最初が肝心。植え付けは3月から4月に行いますが、この春の最初の芽が順調に出れば、あとは自ずと続いてくるものです。しかし実際の現場では、苗木の運搬中に根が乾いてしまったり、寒波などで苗の力が弱くなっていたり、どうしても芽吹きに苦労する苗木も出てきます。
入荷した苗木をポットに植える。
また、虫や病気のほかにも、新芽をかじる野ウサギ、根ごと掘り起こすイノシシなど、幼い苗木は何かと狙われやすいもの。最初の生育が遅れれば遅れるほど収穫にたどり着く年数も長くなり、農家の労苦も積み重なっていきます。
そこでいま無茶々園で取り組んでいるのが大苗の育成です。直径30cmほどの大きなポットに1年生苗を植え、1年間は集中的に管理して枝を伸ばし、2年目にポットの土ごと畑に移植するやり方です。最初は吹きさらしの園地で病害虫や動物の攻撃にさらされるリスクを避けるとともに、2年目は土ごと植えることで新しい園地環境にもなじみやすくなります。集中的に管理できるので作業の効率も良く、必要な手入れが漏れてしまうこともありません。
また、いま明浜ではミカンナガタマムシといって数年前まではあまり問題になっていなかった害虫の発生が増えています。小さな虫なのですが、元気だった大木もまるごと枯らせてしまう厄介な害虫です。ナガタマムシ被害などによって歯抜けになってしまった園地でも、大苗を補植すればなるべく早めに畑を回復することができます。
昨年の春は約1,000本の苗木をポットに入れ、出荷場脇のスペースで1年間育てていきました。管理しているのは普段は出荷作業やデスクワークを行っている事務局のスタッフ。害虫対策や施肥はもちろんのこと、夏から秋にかけては毎週のように潅水を続け、芽かきや摘芯といった新芽の処理も行い、今年は順調に生育が進んでくれたのではないかと思っています。あとはこの春に農家が園地へと植え付け、良い新芽が吹いてくれれば言うことなしです。
育成中の大苗。大きくなれよ。