柑橘の本番となる晩秋ですが、今年は非常事態といって良いほどの不作になりそうな滑り出しとなっています。
10月になれば極早生みかんの収穫がはじまり、いよいよみかんのシーズンに入った高揚感が出てくるのですが、いつものような収穫が得られずにどうも活気が出てきません。みかんの樹を見てみれば枝葉が賑わういっぽうで肝心の果実は少なく、いかにも不作年といった様子。柑橘栽培の現場では強い危機感を感じる年となっています。
無茶々園でも毎年の収穫量を見越して販売を計画していますので、春先、開花後、収穫前と収穫量の見込み数を生産者から集計しているのですが、数字を取り直すたびに見通しが暗くなり、久しぶりの大不作を迎えようとしています。
不作を招いた昨年の干ばつ
なぜ今年は大不作になっているのか、少し柑橘の生育の仕組みから見ていきます。おおざっぱに言えば、みかんは今年果実が成った場所には翌年は成らない性質があり、今年の果実と、来年に果実がなる枝(母枝といいます)を同時にバランス良く育てることで、毎年安定した収穫が実現します。言葉にすると簡単なのですが、実際には花(果実)に傾いたり、新芽(母枝)に傾いたりと、生理状態によって樹の方向性が変わってきます。天候などの要素も大きくかかわってくるため、これをうまく制御するのはなかなか大変なのです。
一年前にさかのぼると、昨年はもともと果実の数が多い豊作年になっていました。そこにやってきたのが9月から11月はじめの降水量が平年の1割程度となる長い干ばつ。球数が多いうえに植物の命を支える水の供給が少なくなり、樹にかかる負担は極大に。こうして次の年につなげる余力が少ない状態となっていました。
一方、今年にはいると冬は暖かく、春には雨がよく降り、弱っていた樹勢は急速に回復しました。これは樹にとっては良いことなのですが今年の果実に限って言えばマイナス。開花時には花がしっかりあったのですが、旺盛に伸びる新しい芽に養分を分配し、幼果を養いきることができなかったわけです。
不作を助長したのはカメムシか?
もう一つ原因として考えられるのはカメムシの大発生。カメムシ被害といえば秋のみかんへの食害だったのですが、今年はいつもと違う発生の仕方でした。カメムシも近隣のヒノキ林の豊凶に発生数が左右され、まず昨夏の新成虫が多い状態でした。夏に生まれて翌夏まで生きるカメムシは冬の寒さで一定数に抑えられるものですが、昨冬は気温が高くて越冬しやすい環境に。愛媛県では越冬カメムシの定点調査を行っていますが、何と平年の約7倍の越冬量だったそうです。
春先から夏にかけて、大量の越冬カメムシがみかん畑をウロウロして幼果をかじりながら食いつないでいました。これまでに経験のないことで農家も手をこまねいていたのですが、どうも花や幼果を加害されると果実の落下を助長するようで、春先にはそれなりに花を咲かせていた樹も夏には寂しい様相へと変わってしまいました。
弱り目に祟り目
追い打ちをかけるように、この夏の酷暑と日照りは日焼け果を大量に発生させました。また周りの自然環境にも餌となるものがないのか、イノシシやカラスなどの野生動物の襲来もとどまるところを知りません。この数年のバランスの悪い極端な気候変動が柑橘を直撃する結果となり、三重苦四重苦のつらい収穫期となっています。
今季の柑橘
せっかく収穫の秋をむかえた今年の柑橘ですが、改めて、残念ながら作柄はとても厳しくなっています。全体的には昨年よりも大幅に収量が落ち込むことは確実ですが、品種によってもやや状況は変わってきます。年内の温州みかんは少ないもののまずまずありそうですが、年明けからの中晩柑はより厳しい状況です。特に不知火あたりは極端な不作になっています。
しかし、なぜだか調子の良い品種もあり、レモンはよく成っています。温暖化に適しているのか、それともカメムシが好まないのか。少なくともイノシシやカラスに食べられることはありません。そのまま果肉を食べるには不向きですが、人間にしか味わえない?果汁や香りを楽しんでいただければと思います。
来年、再来年へ向けて
果実は春に咲いた花からしか取れず、これから新しく種をまいて作りなおすことはできません。今期は非常事態ですが、時を巻き戻すことはできないのです。いまできることは来年以降に隔年結果のサイクルに陥らないこと。このままいけば来年は花が多くなり、母枝ができなければ大豊作となる可能性があります。この冬は剪定に、来年は摘果にしっかり取り組んで、果実を抑制する作業が大事になります。来年は再来年のために働く年とも言えます。
今年はコメがお店の棚に並ばなくなるなど、農家の減少に気候変動が追い打ちをかけて、農産物や食べ物がいつでも好きなように手に入るのは難しくなってくるのかもしれません。いずれにせよ今期は消費者の皆さんにもいつものように十分な柑橘をお届けできない可能性もあります。何より収穫量が生活に直結する生産者にとっては大変に厳しい一年。お互いに我慢の年になります。