明浜は日ましに温度が上がり夏へと向かっています。みかんの樹は春芽と花の季節を終えて新葉の間から幼い果実が顔をのぞかせるようになりました。家庭菜園は野菜の苗でにぎやかに、路傍の雑草は成長を競い合い、まちじゅうが緑で覆われようとする季節。これからみかん農家の草との戦いがはじまります。温州みかんの収獲が迫る秋口まで、農家や実習生は草刈りに明け暮れます。日が伸びて気温が高くなれば日中の暑さを避けて明け方や夕暮れに作業時間をシフト。まだ薄明りの早朝からみかん山の遠くのほうからエンジン音が鳴りはじめる明浜の夏の一日です。
草刈りの主役はエンジン付きの刈払い機です。障害物の少ない畦畔などではチップソーといわれる円盤状の金属刃を使うのですが、段々畑の果樹園ではおもにナイロンコード(草刈りヒモ)を用います。鋸の刃がみかんの幹や枝を傷つけないように、また石垣や小石に刃を当たるととても危ないため、ナイロンのコードを高速で回転させて雑草を刈り倒していく方法をとっています。ナイロンコードには材質や太さ、形状などいろんな種類があります。草刈り機の排気量が大きいほどヘッドを回転させるパワーが強く、太いコードでバリバリと刈り進めることができます。マグロの延縄漁に用いられる極太のテグスを流用しているタイプもあります。ただ、大きな草刈り機は重いうえに振動も大きく、一日じゅう抱え上げ続けるのは辛いものです。より小さな草刈り機と細めのコードを使うと身体への負担はずいぶん軽くなります。
段々畑や傾斜のキツイ圃場での草刈はとても大変。
雑草が成長するスピードは早く、手入れをしなければ見る間に畑が草に覆われてしまいます。大人ひとりが一日がかりで刈り取れる面積はそれほど広くはなく、耕作しているすべての畑を刈り終えるには何日もかかります。摘果や施肥、苗木育成などの作業も並行して進めているこの季節。気温も上がり適度に雨さえ降れば、一回り草刈りを終えると最初に刈った畑ではもう次の草が背丈を伸ばしています。草刈りの回数は樹の大きくなった成木園で年間4、5回程度。日射が入りやすい幼木園ではもっと回数をこなす必要があります。
夏の草刈りは暑さとの戦いでもあります。外にいるだけでも汗がにじむような日に、エンジンを唸らせて草刈り機を振るえば体感的な暑さは最高潮に達します。十分な水分補給は欠かせません。夏の間にかなり体重が落ちます。しかしキレイに刈り終えて味わえる充足感は大きく、晩酌もひときわ美味しいのです。
一般的なみかん作りでは除草剤を使っての抑草が行われます。除草剤は一度使用するとしばらくは次の草が生えてきません。一般栽培では年間数回の除草剤散布をもって大半の草対策を終えている農家も多いことでしょう。草刈りは柑橘類を有機栽培で作るうえで最も労力負担が加わる農作業と言えます。ただ、草が生えることはデメリットばかりではありません。真夏の干ばつ下では地温が上がりすぎるのを抑え、大雨に見舞われた時には表土の流出を食い止め、雑草の根や茎が土壌に還元して畑を肥やしてくれます。また、多様な草花が園地内にあることによって特定の病害虫が大量発生することを防ぐ機能もあります。一般栽培が主流を占める愛媛のみかん産地において、青々とした園地は無茶々園の象徴的な景色でもあります。
無茶々園生産者の園地は草とともにある。
生産者の作業日誌を調べてみると年間の作業時間のうちのかなりの割合を草刈りに充てていることがよくわかります。明浜でも生産者の高齢化が進み、地域の農耕地を保全していくために現役農家の栽培面積が拡大する傾向が続いています。
一人あたりの受け持つ草刈りの面積も大きくなるわけです。さらには温暖化によって雑草の勢いも増しています。これからどのように草と付き合っていくのか?
果実を成らせないことを必須条件に育成中の園地では部分的に除草剤を認める。家族経営から雇用を組み合わせた経営に変えていったり、外国人実習生の手を借りたり、農作業が回るようにする。はびこっても扱いやすい草の種を撒いて育てる草生栽培に取り組む。
生産物へのこだわりをなるべく維持しながらも、環境の変化にあわせていかなければいけない。生産者間でも議論しながら「草」に取り組んでいきます。
クローバーを利用し、草生栽培にも取り組んでいます。