記録的に花が咲くのが早かった昨年に比べると、今年の春は穏やかなスタートでした。ちょうど世間では10連休となっていたころに花の最盛期を迎え、いつもよりは少し早めくらいに落ち着きました。花が咲かなければ実も結びませんので、その年の収穫を占う最初の目立った指標が「開花」となります。
花が咲いた後にやってくるのは「生理落下」です。花びらが落ちると緑の子房が顔を出します。この小さな果実がぽろぽろと自然に落ちていくのが生理落下。みかんの樹が養分をどこに振り分けるのかがポイントになり、5月から6月にかけて新芽と果実とで養分を競い合って果実が落ちるのが「一次落下」です。ちなみに新芽が自然に落ちることはありませんので、発芽が多いほど果実が落ちやすくなります。
もともとたくさん咲いた花を自然に調節する機能であり、よくできた生理現象です。ですが、この春はこの一次落果がかなり激しくなりました。一つは競合相手である春芽(新芽)がしっかりあったこと、もう一つはこの時期の天候です。乾燥したり温度が高かったりすると果実が落ちやすく、今年の気候はまさにぴったり当てはまってしまいました。特に春先からは降雨が少なく乾いた日が続き、普段は夏にしか利用しない潅水用のスプリンクラーを回した地区もあったほどです。
7月から進むのが「二次落下」。今度は残った果実同士や新根との養分の取り合いで、ここでも果実が自然に脱落していきます。こうして梅雨明けごろには果実の数が定まり、今年は豊作、今年は不作、とより明確になっていきます。現状では、今年の温州みかんの果実は去年よりも数がやや少ないように見えます。ただし、昨年はやや不作であった伊予柑やポンカンはまずまず着果しているようです。
そしてこれから収穫前にかけて、今度は生産者が「摘果」の作業を行っていきます。これは人為的に果実の数を調整する農作業。通常は生理落下を経てもまだまだ果実の数は多いものです。樹の負担を抑えて来年の花付きを確保するため、残った果実を太らせるため、品質を上げるために、適正な数になるまで手作業で果実を落としていきます。果実の止まりが多い年にはこの摘果作業に非常に多くの労力がかかり、逆に少ない場合にはほとんど手を入れなくても良いくらいとなります。
樹の生理的な働きに加えて、生産者の摘果作業も入り、最初の花数から比べると本当に少数の果実だけが収穫へと向かっていきます。みなさんのお手元に届く柑橘はどんな果実であれ、勝ち残った選りすぐりの精鋭、と言えるのかもしれませんね。
▲摘果作業を待つ伊予柑の幼果