柑橘栽培を営むなかで重要度の高い仕事の一つとして『剪定(せんてい)』が挙げられます。樹の枝を切る作業です。枝の数を減らすことで、残した枝の生育を促し、樹は新しく若い芽を吹かせます。日当たりや風通しも良くなります。放っておくとジャングルのように枝が混み合うため、生産者が樹園地内を動き回りやすくする目的もあります。
剪定は秋冬の収穫を終えてから次の芽が出てくるまでの時期を中心に行います。ただし厳冬期に行うと樹が衰弱することもあるため、寒のピークが過ぎてから取り掛かります。2月下旬から4月頃の春先が剪定の最適期。のこぎりやチェーンソーを携えてみかん畑に向かいます。
春は剪定の季節。
剪定にも様々なスタイルがありますが、一つ定石になっている仕立て方があります。開心自然形と呼ばれ、大地へとつながる主幹から放射状に主枝を 3、4本伸ばして配置する樹形です。樹形を作るための切り方のポイントは枝を分岐部の付け根から切り落とすこと。枝をまるごと抜いていくイメージです。まずは枝を整理して骨格を作っていきます。
骨格が整えば、枝の先端、樹の外周に近い部分を考えていきます。これから果実が成る部分を作っていく剪定です。昨年果実が成って衰えた枝や、混雑した枝を抜いていくのですが、品種や育て方によって切る時期や程度を変えていきます。おおざっぱに言えば、切る量が多いほど、切る時期が早いほど、新芽の勢いが良く、花の数は少なくなります。
開心自然形。こんなかたちになるように。
説明を聞くと簡単なように思えますが、いざ実際に園地に入って樹を目の前にすると考え込んでしまいます。生育に与える影響が大きいだけでなく、樹の状態は一本一本違うため単純な繰り返しの作業とはいきません。柑橘は年中葉っぱを茂らせて、枝の様子が観察しにくいこともあります。腹を決めて枝を切り取ると周囲が急に明るくなり、清々しさと同時に少し不安な気持ちも沸き起こってきます。
造園や盆栽など樹木の管理が芸術にもなるように、果樹の剪定も生産者のセンスが問われます。考え方だけではなく経験を重ねて体得していく奥の深い作業です。ベテランの生産者が後継者や研修生に簡単には任せられないのが剪定。逆に一度切り方が決まるとなかなか変えることが難しいのも剪定。ほかの作業とは違って、産地で “名人” と呼ばれる人が生まれるのも剪定です。