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明浜の水事情

2021.07.28

四国では例年7月に梅雨が明けて夏がやってきます。高気圧のもと、しばらくは晴れて雨が降りにくい日が続きます。無茶々園のある西予市明浜町は特に夏の降雨には恵まれない土地柄です。近くに高い山がないため積乱雲が発達しにくく、滅多に夕立もやってきません。怖い存在である台風も貴重な雨を運んでくる天恵となります。

 

古代、農耕がはじまったころから、安定的な水の確保が農業を営む重要な条件となってきました。現代の日本では湿潤な気候に加えて灌漑も当たり前に整備され、農業でも水不足に悩まされることが少なくなってきました。しかし、明浜のような海岸沿いの果樹産地は、急な山の斜面を切り開いているため基本的に天水が頼みで水資源が脆弱な環境にあたります。

ずっと使われてきたのがエスロンパイプ(塩ビ管)。倉庫の下などに貯水槽を作り、エスロンを通して園地へポンプで送水する仕組みです。農家がめいめいにエスロンを伸ばし、段々畑の至る所に配置されています。使われなくなったものも多く、いまでもたくさんのエスロンが集落からみかん山へ向けて伸びています。

 

川沿いに何本も束になって這うエスロンパイプ。

 

みかん産地が連なる愛媛の西南部では1967年夏に約3か月に渡る大干ばつに見舞われ、大きな被害を受けた教訓から地域を越えた用水事業がはじまりました。山間部の西予市野村町にダムを作り、佐田岬から宇和島までのみかん畑に総延長170km以上の水道管を通して水を供給する“南予用水”と呼ばれる大事業です。明浜にも30年ほど前に用水が伸び、深刻な干ばつの不安からは解放されることになりました。

 

この南予用水の水は地中の配管を通り、畑に立ち上がるスプリンクラーから散水されるのが一般的です。とはいえ常時水があるわけではなく、干ばつ傾向となった場合にだけ散水する使い方であり、好きなタイミングで好きなだけ水がやれるわけではありません。スプリンクラー施設は数十ヘクタールにひとつの貯水槽と制御室が設けられ、地域で散水の合意が取れると順番に水が回っていきます。同時に水を送れる面積は限られ、エリアを一巡するだけでも一週間近くかかります。スプリンクラーだけでは間に合わない場合や地域での判断を待てない場合、農家は自らタンクに水を貯めトラックで散水に回ることになります。

 

スプリンクラーでの散水の様子。

 

最近は気候変動で猛暑になる年も多く、厳しい干ばつのリスクも指摘されています。また、みかん作りもより品質を求められるようになり、土壌水分に反応しやすく細かい管理を必要とする新品種も登場しています。作りこなすには繊細な水管理が求められる時代。明浜でのみかん作りにとって南予用水は救いになったものの、水はまだまだ課題であり続けています。

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