お知らせ

みかん畑の機械化の話 その2 モノラック

2022.05.25

明浜の農業に欠かせない機械と言えば“モノラック”、運搬用の小さなモノレールです。軽トラックが通行できる農道などをスタート地点にして畑の奥に向けて鉄のレールが伸びていきます。転がり落ちそうな急な斜面やそそり立つ石垣にも蔓が絡むように伸び、至るところで縦に走るレールを見ることができます。このモノラックは急傾斜地でのみかん栽培と運搬をめぐる歴史のなかで生まれ、広まってきました。

 

狭小で急傾斜の多い明浜の畑ではかかせないモノラック。

 

海沿いの斜面に築かれたみかん畑では、収穫物や肥料などの運搬が大きな負担でした。農業機械が発達する前は、山のてっぺんから集落や海岸まで、背負子を背負い天秤棒を担いで下ろしていました。当時の運搬は大変な重労働で、大きな肩のコブやガニ股の足が愛媛の海岸沿いに住む百姓に特徴的な体型だったそうです。

運搬用の機械として最初に開発されたのは索道でした。山の上と麓をつなぐワイヤを張り、荷物をワイヤに掛けて下ろしていく仕組みです。戦後1952年に急傾斜地帯農業振興臨時措置法(段畑法と言われます)が成立し、傾斜地や段々畑向けの農業振興政策がはじまります。明浜ではこの索道が多く設置されるとともに、急傾斜地でも使用可能な機械開発の動きが進みます。愛媛県の西南部では柑橘栽培が奨励され、毎年多くの苗木が植えられて増産が続き、みかん産地が最も活気づいていた時期です。

1960年代になるとモノラックが誕生します。果樹栽培用として45°の傾斜まで対応できるように開発され、レールを自在に曲げることで段々畑の隅々まで荷台が届きます。これによって運搬の負担は劇的に改善します。ちょうど農業構造改善事業が進められており、農道の整備とセットにしてモノラックはみかん産地へ急速に普及していきました。

 

リコイルスターターでエンジンスタート。

 

レールと車両のかみ合わせ。

 

モノラックは単軌道のレール上を動力車と荷台が進んでいく仕組みです。都市交通のモノレールとは違い、山岳鉄道のようにレールに歯形や穴を設け、車両の歯車をかみ合わせて勾配に耐えながら進んでいきます。動力車はガソリン(混合油)を燃料にする原動機付の車両で、果樹栽培用のモノラックは約200kgの荷物を引っ張っていくことができます。メーカーはいくつかあって明浜では主に3社の製品が使われています。ちなみに“モノラック”は主要メーカーであるニッカリの製品名。一般名称はモノレールなのですが、明浜ではこの“モノラック”が定着し、さらに省略して“ラック”と呼ぶこともあります。

みかん農家が自分でレールを敷設するのは難しく、地域では農機具屋さんが設置工事を担っています。モノラックの設置ルートは直線ではなく、石垣や傾斜を考慮してカーブを付けることは珍しくありません。設置工事の際は一本6mのまっすぐなレールを運び込み、その場で上下左右の角度を調整しながらレールを曲げます。こうして複雑な地形に沿ってレールを繋いでいきます。

 

特殊な機械でレールを曲げて石垣に沿うように。

 

モノラックの帽子もあります。

 

世に出てから50年以上が経ったモノラック。明浜では取って代わるような運搬手段はいまだに登場していません。最近は農家の栽培面積が大きくなり、農道に加えて園内道を作るケースも出てきましたが、道を作れる場所は限られています。急傾斜に耐えるだけではなく、畑の姿を大きく変えなくて良いのも優れているところ。まだまだモノラックに頼るみかん栽培が続きます。

pagetop